2019年2月14日清製粉小網町ビルにてドイツパン・菓子勉強会の主催による講習会が開かれました。
講師を務めたのは元地質学者という経歴の持ち主ルッツ・ガイスラー氏。
講習会ではライ麦パンに付加価値を与える「前処理(マルツシュトゥック ブリューシュトゥック メールコッホシュトゥック)」を用いたパンが紹介となりました。
これまで国内に伝わってきたドイツパンとは異なるアプローチでライ麦パンが披露されました。
通訳の森本智子さん通じて最初にご本人の挨拶がありました。
「趣味のパン作りが高じて現在はパン作りの道に進みました。皆さん、今日は気軽に『ルッツ』と呼んでください。」
パーダーボルン風ロッゲンミッシュブロート
マルツシュトゥック使用、不使用
ドイツ北部のパーターボルンという町で古くから作られたパンをご自身が学んできた知識、要素を加えアレンジしたパン。
マルツシュトゥック マルツシュトゥック
使用 不使用
ドイツではサワー種とイーストで作るパン。サワー種はザルツザワー(塩を入れたサワー種、1970年代にドイツで確立された。塩を配合することで乳酸菌の動きを抑えてマイルドな味に仕上げる)。このサワー種の作り方を行うことで3段階法の温度帯を一気に通過することが出来るメリットがある。従来このパンは本捏でイーストを配合するが、この種をしっかり作ることでイーストなしで良いパンが焼ける。
小麦が4割のこの製品にはフランス発祥の製法オートリーズを用いてボリュームを出していく。ドイツでの研究からライ麦と小麦を使うミッシュブロートに関しては、それぞれを分けて仕込む。これはライ麦と小麦のグルテンの質が異なるので、こういった製法が適しているという結果からの製法となったようだ。
マルツシュトゥックの効果はサワー種のエサとあまみを出すことが目的とされた。
他に日持ちと酸味を抑える効果がある。ドイツでも少しずつ広まっている製法のようだ。
マルツシュトゥックの保存方法として炊飯器で保存が可能となった。
オートリーズ生地
小麦粉 40%
水(45℃)20%
原材料を混ぜ合わせ、30分置いていく
サワー種
ライ麦 25%
ぬるま湯 25%
ライ麦初種 5%
塩 0,5%
原材料を混ぜ合わせ、20~24℃で12~16時間置く
マルツシュトゥック
ライ麦全粒粉 10%
お湯(80℃)26%
お湯をライ麦粉にさっと加え、均一に混ぜ合わせる。ラップをして乾かないように保存する。
70~75℃で12~18時間置くが数時間に一度かき混ぜる。徐々に生地がゆるくなり、茶色に変色し冷めるまで保管していく。
本捏
上記3つとライ麦22、5%、塩1、5%を低速で5分、中速3~5分
捏上温度28℃室温で40分寝かせる成形後120分ホイロで発酵をとる
250℃で窯入れし200℃まで落として60~65分焼く。窯入れ後蒸気を入れる(3分後放出)
不使用の場合は、本捏の配合を調整(サワー種、オートリーズ生地は同様)
ライ麦全粒粉 10%
ライ麦11502 2、5%
水20%+アルファ塩1,5%
ロッゲンシュロートブロート
ドイツ北部で食べられているパン。
シュロートを使用しているのでミネラルなどが豊富な栄養価の高いパン。
日持ち向上を目的とし加水性を良くする。その為ブリューシュトゥックを配合していく。
サワー種
ライ麦シュロート 40%
ぬるま湯 40%
ライ麦初種 8%
塩 0,8%
シュロート、初種、塩を合わせ、ぬるま湯半量を加え、10~15分まとまるまで捏ねる。
残りのぬるま湯を加え20~22℃で12~16時間発酵させる
ブリューシュトゥック
ライ麦シュロート 10%
お湯(80℃) 30%
塩 1、3%
シュロート、塩をお湯に混ぜる。表面をラップで覆い8~12時間室温でふやかす。
マルツシュトゥックは高温で一晩寝かせ、でんぷんを分解し〝あまみ〟を引き出す。ブリューシュトゥックはお湯で混ぜた後はでんぷんの糖化を落としたくない為室温で保存していく。そして塩を配合するが乳酸菌の動きを抑える。本捏の際に混ぜる粉の酵素がブリューシュトゥックを食べるので〝あまみ〟を引き出す。
本捏
サワー種とライ麦シュロート、ブリューシュトゥックを15分低速で捏ねる。
生地が硬いのでシュロートが潰れちょうどよい状態となる。
低速で回しながらお湯を少しずつ注ぎ5分ミキシングを行う。
捏上温度30~32℃。捏上後室温で30分寝かせる
手を水に濡らして成形し20℃/120分ホイロで発酵をとる。
250℃で窯入れし、120分経過した後、180℃まで落としながら蒸気を入れて焼く
シュロートにはつなぎが無い為、ミキシング時に捏ねることでこすり合わさることででんぷん質を引き出す。この作業はタテ型ミキサーが適している。捏上時は生地を適度な大きさで丸く取る。この生地を潰すと外側に割れ目が入らないのが捏上の目安となる。
ベルリン風クニュッペル/キール風ゼンメル
メールコッホシュトゥック使用
ベルリンにて伝わる小麦粉の小型パン。日持ちなどを加味したレシピとして紹介。ドイツでは小麦粉のパンにはバター2%が、スタンダードな量とされた。イーストは1%だが焼き上がった際のイースト臭を抑える為にこの数値となっている。メールコッホシュトゥックはスペルト小麦のパンを製作する際に吸水の確保を行う為に開発された製法。
中種
小麦粉550 50%
牛乳(20℃)32、5%
生イースト 0、5%
塩 1%
原材料をすべて合わせ捏上げる。室温で60分おき、イーストを活動させる。
ガス抜きをし、5~6℃で16~24時間保管する。
味を良くしたいという意味で硬めの配合。24時間置くと風味やボリュームが良くなる。
風味を良くする為に、中種に配合されている小麦粉の半量を入れている。牛乳を配合することで乳脂肪が作用し焼き上がった際の内相のキメが良くなり。ふわふわ感も付与できる
メールコッホシュトゥック
小麦粉550 3%
お湯(100℃) 15%
塩 1%
原材料を合わせ煮立たせ、弱火または余熱で2分かき混ぜながら冷やす。固めの生地にまとまれば良い。冷ましてから室温で4~12時間寝かせる
小麦粉と水1対5で混ぜ、塩を加えていくと糊化してプリンのような弾力のある仕上がりになる。沸騰したお湯を一気に混ぜるとダマになる。他に吸水性が弱く水から徐々に混ぜることで小麦粉が水をしっかりと吸って蓄えることが出来る。
本捏
中種、メールコッホシュトゥック、
小麦粉550 47%
水(30℃) 25%
生イースト 0、5%
バター 2%
原材料を全て混ぜ低速で5分ミキシング。中速で5~8分
固めでしなやかなに24~26℃で捏上げる。
室温で60分寝かせる。
80gに分割し丸めて棒状に成形
閉じ目を下にして室温で90分発酵をとる
閉じ目を上にして蒸気を入れて230℃のオーブンで20分焼成。
焼き上がったら水スプレーをして照りを出す。
メールコッホシュトゥック不使用の本捏配合
中種全量
小麦粉550 50%
水(30℃) 33%
塩 1%
生イースト 0、5%
バター 2%
ブリューシュトゥック
ライ麦シュロートとお湯を混ぜ70~90℃に炊いていく。
この温度帯は酵素を活性させるのに適した温度帯。
他にでんぷんの糊化にも適している。
でんぷんの周りにはたんぱく質が付着している。
たんぱく質に熱湯を注ぐと穴が開いて壊れていく。(卵の殻が割れていくイメージです)
開いたところにお湯が入り水分で、でんぷんは膨らんでいく。(シュロートがまとまった状態)
でんぷんの周りはたんぱく質で囲まれており、酵素はでんぷんと交わることが出来ない。そこで熱湯を注ぎ、でんぷんと酵素が交わる環境を作っていく。
酵素のひとつにアミラーゼがあるが、アミラーゼはでんぷんを糖に分解する。アミラーゼはお湯を注ぐことでたんぱく質が開き、でんぷんと交わり、でんぷんを糖に分解していく。
ブリューシュトゥックは炊飯器で保存され高い温度帯を維持することで、でんぷんは糖に分解されでんぷんは糖化していく。
この糖をマルトーゼと呼ばれ〝マルツ〟とはよく知られている「モルト」を指す。
茶色い色だが、この色がシュトゥックや製品の色に反映されていく。
以上のようなことからわかるようにブリューシュトゥックを高温で保たずに冷ました場合、温度が低くなるとアミラーゼは以上のような活動が出来なくなり活性するには時間を要する。
冷ましてしまった場合、本捏の際に使う粉に付着している酵素がでんぷんを食べ始め糖に分解され〝あまみ〟が出てくる。
メールコッホシュトゥック
小麦粉と水を火にかけていく。水の状態から混ぜていくのでダマになり難い。
沸騰するまで炊くので、途中アミラーゼが80℃で死滅する。
メールコッホシュトゥックの酵素は不活性。熱を通しているので、でんぷんは糊化している。
本捏など他の作業時の粉に酵素を付着しているので、メールコッホシュトゥック内のでんぷんが食べ始めマルトーゼが出来始める。酵素の働きをいかに活かすかによって、ブリューシュトゥック、メールコッホシュトゥックを使い分けていくことが重要とされた。
ライ麦粉の中には酵素が多く含まれる場合があるので、酵素の強い粉を使う場合は上記シュトゥックの使いわけが求められる。
メールコッホシュトゥックを起こす際(量が多い際は特に)に酵素が元気になる温度帯を通るので酵素の活性が活発になるのでで、それを抑えるために塩を入れ活性を調整する。