パンの資料

パンを楽しむ料理 6 フランスワイン紀行 鈴木優子

パンを楽しむ料理 6 鈴木優子

フランスワイン紀行

本来このコンテンツをパンと合わせる料理に関して鈴木優子さんに提案を頂いておりましたが、コロナウイルスの影響により撮影が難しいのでこれまで鈴木さんが経験された食にまつわるお話を紹介させてもらっています。前回前々回は鈴木さんのフランスにおけるチーズ作り経験のお話とパンとチーズのペアリングを紹介してきました。今回もフランス体験談としてワイン学校やワインの収穫体験に関するお話を記して頂きました。

 

<フランスでのワイン修行>

パン・チーズ・ワインの勉強をするために2006年にフランスのワーキングホリデービザを取得しました。ワインの勉強としてはワイナリーを訪問したり、ボルドーにあるワイン学校で短期間の授業を受けたり、ボルドー地方のサンテミリオンという場所でホームステイして近所のワイナリーで研修させてもらったりしました。

 

美酒を求めて  -シャブリ編-

6月中旬にパリからのバスツアーでブルゴーニュ日帰りをしました。バスで3時間ほど行くと白ワインで有名なシャブリに着き、カーブを見学しワインの造り方を教わった後、ワインの試飲をしました。

 

<シャブリ豆知識>

320軒のCave(蔵)でシャブリワインが造られている。シャルドネという1種類のぶどうから作られ、等級は4つ。私が当日聞いたのは下記の様な区分だった。

 

PetitChablis(プティシャブリ):平野にあるぶどうの木から収穫したもので1~3年が飲み頃。熟成はステンレスの樽で行う。

ClassicChablis(クラシックシャブリ):丘の南西向きにあるぶどうの木を使用。飲み頃、熟成はPetitと同様。

PremierCru(プルミエクリュ):急な丘の南向きで土に牡蠣の殻が混ざっている所のぶどうを主に使い、熟成は主に木の樽で行う。飲み頃は5~7年ほど。GrandCru(グランクリュ):急な丘の南向きにあるぶどう100%で作られる。飲み頃・熟成はPremierと同様。Grandcruと言われるものが高価なことに納得。これもまたその年によって熟成のタイミングなどが違うので面白いと思い、ますますワインに惚れてしまった。シャブリのあとは世界遺産にもなっているVezelay(ベズレー)を訪問。マグダラのマリアの骨がある教会で最近ダヴィンチコードの影響で有名とのこと。教会は丘の上に建っていて裏から見下ろす景色は最高でした。

 

美酒を求めて  -シャンパーニュ編-

6月下旬にはシャンパーニュ地方のReims(ランス)という町に1人旅に出ました。パリから東(&やや北)にTGV(新幹線)にて90分の所にシャンパンの故郷があり途中車窓からは一面のブドウ畑が延々と続きます。3泊ほどランスに滞在し8ヶ所のCave(蔵)を訪れることが出来ました。Piper Heidsieck, Taittinger, Veuve Clicquot, Pommery, Moet et Chandon, Mercier, Castellane, Mummと駅から歩ける範囲で並ぶさすがシャンパーニュ。(数箇所はランスから電車で20分のエペルネーという町にあり)其々のカーブでシャンパンの作り方を説明してもらい、カーブ内を見学してから試飲という流れで入場料当時€7前後でシャンパン1杯付き。3杯で€15ほど。試飲ではVintage 物も選べたりするので、ボトルでは買えない価格の物を色々と試す事が出来ます。ここぞとばかりに飲み比べ、合計15種類のシャンパンを試すことができました。シャンパン作りの研究に大きく貢献したドンペリニオンの像も拝みました。畑の小さいブドウを見て、収穫の時が来たら自分も収穫を体験してみたいと強く思いました。

<シャンパン豆知識>

シャンパン作りに使うぶどうは3種類。シャルドネ・ピノノワール・ピノムニエです。

9月に人の手により収穫され、即座に各品種・各畑で圧搾しジュースにし、これをステンレスの樽に入れ、発酵させる。ぶどうの酵母が糖分を分解しアルコールが発生する。10日ほどでぶどうジュースがワインへと変化していく。多種のワインが出来たところで1つ1つのワインを試飲し、ブレンドの割合を決める。それぞれの会社に自社製品にあったブレンドをする役目の人がいます。ぶどうの品種は3種のみだが畑ごとでワインは違うので10種以上合わせることもあるそうです。数種のワインをブレンドしたものに砂糖、イーストが添加されてシャンパンのボトルに入れる。この時ボトルの栓はメタルキャップ(瓶ビールと一緒)で閉められ、温度8-10℃湿度85-90%の蔵に3年ほど横にされ、熟成を待つ。この熟成の間に瓶の中ではイーストが砂糖を食べながら発酵を続け、炭酸ガスを発生させる。これがシャンパンの泡となる。3年経つとボトルの下になっていた部分にイーストの活動した残骸(カス)がたまるので専用のラックにボトルをさして徐々にカスをボトルの栓の部分に移動させていく。昔は職人が全て手作業でボトルを回してカスを栓の所に寄せるまで1ヶ月ほどかかったそうだが、今は機械が1週間でやってくれるのだそうだ。ヴィンテージ物は今でも人がやっていた。次はカスを取り除く作業になる。ボトルの首の部分のみマイナス25℃の液に浸す→カスが凍結→栓を抜くことにより炭酸ガスがカスを持ち上げる→カスがなくなる。という仕組み。

最後にボトルには香り付けのワインと砂糖が加えられ、コルク&ワイヤーで栓をしめる。添加する砂糖の量がシャンパンの辛口(Brut)とか甘口(Demisec)とかを決める。シャンパンは普通の物で3年、ヴィンテージで5年は熟成されている。シャンパンが高価な訳を納得しました。そして、シャンパンは赤ワインとは違い、家で寝かしておいても悪くなる一方。手に入れたらすぐに飲むべし!!と教わりました。家での保存は横に寝かせ、飲む30分前に氷水に入れて準備すればOKとのことでした。

 

美酒を求めて  -ボルドー編-

7月にワインで有名なボルドーに旅しました。ボルドーはパリからTGVで西南に3時間ほど。1週間の滞在の内3日間はワイン学校での授業を受けることにしました。

<ワイン学校1日目>

参加者は11人でカナダ、イギリス、アメリカ、南アフリカ、メキシコからの人々。ワインの輸入をしていたり、ワインの勉強をしてこれからワインの仕事に就く人など。国は違えど、ワイン好きが集まりました。午前午後、各3時間授業が行われた。始めはボルドーワインの特徴について。ボルドーでは生産量の約80%は赤ワインでその他はロゼ・白(辛口・甘口)がある。使用されているぶどうの特徴や地域による違いなどを勉強。ボルドーはブルゴーニュと違い2-3種類のぶどうをブレンドするのが特徴。知識を入れたあとは、試飲の仕方の練習。

香り)香りを嗅いで何の香りかを当てる。知っている香りでもそれが何なのか当てるのが結構難しい

味)塩水・砂糖水・酸が入った水などのブラインド試飲をして、舌のどの部分で感じるかなどを再確認。

それからワインの試飲を開始し、ワインの色の見方を教わったあと香り・味の確認。午前中に5種類のワインを試飲し、ランチは先生も一緒にみんなでレストランに行ってゆっくり2時間以上かけて会話を楽しみながら食事とワインを楽しみます。そして、すぐに午後の授業が始まり、今度は6種類のワインの試飲。色を見て、香りを嗅いで、味を見て、その都度自分の感じたことを言い合う。この日は計13種類のワインの味を見て授業が終わるころはほろ酔いでした。

<ワイン学校2日目>

午前中はワインの作り方の勉強。ぶどうの木の手入れ方法から始まり、ぶどうジュースからワインへの発酵。ステンレスやコンクリートの樽が使用されていて、ぶどうがアルコール発酵をしてワインになったらシャンパンと一緒でブレンドの割合を決める。ブレンドしてから樽に入り、さらなる熟成が始まります。

赤ワインの最終発酵の時、樽に泡立てた卵白を入れて樽の中の掃除をするそうです。卵白が時間の経過と共に徐々に樽の底へ移動しワインの中に入っているカスを集めてくれて、ワインがクリアーなり、ワインのpH調整も行うとのことです。そして、卵黄を活用するためにできたのがボルドー菓子で有名なカヌレだと先生がお話ししてくれました。

 

作り方の勉強をしてからみんなでバスに乗り、シャトーめぐりをしました。実際にブドウの木を見て、カーブを見学し試飲。そしてお昼はシャトーで美味しいワインとともに頂く。シャトーにはお客様やジャーナリストが食事をしたり、泊まったり出来る場所が必ずあり、とても豪華で美しかったです。その後も違うシャトーに寄り、見学&試飲。この日も合計10種類以上のワインを試飲することになり、種類が多すぎて正直何がなんだか分からなくなっていたのを覚えています。

<ワイン学校3日目>

引き続き赤ワイン試飲を数種類してから、今度は白ワインのお勉強。白ワインでも辛口と甘口の両方が作られていて、それぞれの作り方の特徴を説明され、試飲。甘口のものは砂糖が80g/リットルというから結構な甘さでした。甘いデザートワインを飲む機会はあまり無かったけれど、美味しいワインがあることを知りました。3日間しっかりと講習を受け、感じた香りを言葉で表現する難しさを知り、ワインの世界の広がりを実感しました。

 

*StEmilionホームステイ

7月のボルドーワイン学校に行って先生にボルドーでの収穫体験をしたいから研修先を紹介してほしいと懇願し、ブドウの収穫時9月から10月にかけてボルドーのサンテミリオンという場所でホームステイをさせていただきました。

天気予報をみながら各シャトーの収穫が始まり、道を歩いているとブドウを絞った香りが漂ってきて、みんなの興奮が伝わって来ます。機械で収穫する人、手で収穫する人みんな汗だくになって働きます。ボルドーと言っても広範囲に渡っていて、StEmilion(サンテミリオン)という場所はほとんどのシャトーが赤ワインのみを作っていました。ぶどうの種類はメルローとカベルネ。

  • Vendange(ヴァンダンジュ)の時

ホームステイ先のマダムの紹介で収穫の30代の夫婦でワイン作りをしている小さなシャトーのお手伝いをする事になりました。収穫をVendangeといいます。夫婦を手伝うために週末に友人が15人ほど集まり収穫をするということで仲間に入れてもらいました。汚いズボンとシャツを着て、長靴を履き、帽子とサングラスを着け、はさみとバケツを手にしていざ出陣!!ブドウの木の高さは私の背より15cmくらい低く、ブドウ自体は地面から40・50cmの所になっています。木は1m間隔で50m続き、真っ直ぐに線を描いて植えてあり列と列の間は約2mの間隔。2人1組になって1列を担当し両脇から収穫をしながら移動ししゃがんでブドウを切り、カビなどをチャックしてバケツに入れ、次の木に1歩バケツと共に移動し、またしゃがんでブドウを切ると言った作業を行います。プラスティックで出来た大きな容器(籠)を背負う係りがいて、収穫している人の所に歩いていき、ブドウを回収し大きなポリバケツにブドウを移す。ブドウを収穫する時の注意事項がいくつかあるので全てのブドウをチェックしながら収穫を行います。カビが生えているブドウは木の下に捨てる。取り除ける範囲だったらカビている部分を捨てて後はバケツに入れる。ブドウがカリカリに乾いている部分は取り除く。葉っぱが混ざらない様に注意する。茎が黒っぽいのは病気なので捨てる。ポリバケツにいっぱいになったブドウはトラクターに積み、荷台がいっぱいになったらワインを造るシャトーへと向かう。シャトーには茎を取り除く機械があり、乾燥機の様な機械にブドウを入れるとブドウの粒が茎から全て取れてステンレスのタンクにポンプアップされる。とりのぞかれた茎の部分は畑に帰り肥料となる。収穫してすぐにこの作業を行わないとブドウの発酵状態が低下するので流れ作業で素早く行っていました。

 

私にとって初めての事なのでブドウの選定などに時間がかかり手もベタベタになり誰かと会話をする余裕もなくひたすら作業に集中し、いかに効率よく出来るかを考えながらブドウと向き合っていました。週末の2回に渡り同じジャトーの手伝いをしました。1週目はメルローを2週目はカベルネソービニオンを収穫しました。カベルネの方が熟すのに時間がかかるので時差をつけて収穫するそうです。食べてみるとカベルネの方が酸味と渋みを感じました。お手伝いをしたシャトーではお給料の代わりに手伝った全員分の食事を振るまってくれました。フランスらしく、前菜・メイン・チーズ・デザートと昼からフルに頂き、ワインもフルに飲みました。午後はほろ酔いで収穫の続きをして夕方作業が終了して各家庭に帰り、お風呂の後夕飯にまた集う。みんなで食卓を囲み夜中まで飲み、喋り、とても貴重な素晴らしい時間でした。全ての収穫が終わった時は達成感があり、夜にシャトーの夫妻は“手伝ってくれたみんなにありがとう”と乾杯を、手伝った仲間達は“2006年ワインが2人の手によって最高のものになりますように”と乾杯している姿を見て感動しその時間を共有できたことに感謝しました。

収穫後は夫婦でワイン作りを進めていましたが私は毎日の様に手伝いに行きました。

タンクに入ったブドウの粒は重みでジュースとなり、皮や種の部分は徐々に上昇し皮の層が出来、これが液を保護する。ブドウの持っている天然の酵母でアルコール発酵させる場合もありますが。イーストを加えてあげることにより発酵が安定するそうです。数日したらタンクの中をかき混ぜるポンプアップの作業が始まります。

熟成が終わり皮を取り除く作業も一緒にやらせてもらいました。

 

他の大きなシャトーでも研修や見学をさせていただき、機械での収穫やボトリングの手伝いなどもすることができ、ワイン作りのほんの一部を体感することができました。

 

 

シャトー訪問で作り手さんが必ず口にして印象に残っている言葉は「テロワール(大地)」でした。良いテロワールから良いブドウができ、優秀な作り手の力によって良いワインができると自分のシャトーを誇りに思い仕事を続けている姿は素敵でした。

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