パン屋のこゝろ得 8 鈴木優子
ヴァンドウーズは楽しい
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* 夢を叶え、気分爽快
11日、パン屋での仕事の最終日。この日は朝から快晴で春の空気が漂っていた。気分良く
仕事を始めるが、みんなに最後だねって言われて最終日だと思うと、店に立っていても思わ
ず涙が出てしまう。
朝、店で接客をしていたらオーナーに手が空いたらちょっと来てくれる?と言われ、何か悪
いことしたかしら・・・?!と思ってちょっとドキドキで行ったら「この人、今日から働く
からユウコが店にあるパンとお菓子の説明と接客の仕方とレジの使い方を教えてあげてく
れ」と。新人の彼女に対しては「ユウコはパンのことは良く知っているから今日は彼女の言
う事を聞いて働いてくれ」と。
他にフランス人の売り子が2人いたのに、私に頼んでくれてすごく嬉しかった。認めてくれ
た証拠だと思うし、教えるチャンスを与えてもらって嬉しかった。店で商品の説明をして包
装の仕方なども教えて、接客も一緒にして。ちょっと昇格した気分だった。最後の仕事が終
了したとき、売り子仲間のソフィーが「今日はユウコ最後だから乾杯用に持って来たよ」と
家からお酒を持って来てくれていて、仕事が終わってから今後のお互いの成功を祈り乾杯
した。こんな気遣いにも有難く感謝。
13日、町を離れる日に店のみんなとお別れをした。オーナーは「いつも元気で気持ちよく
やる気を持って働いてくれてすごく楽しかったし、助かった」と言ってくれた。
しかも、売り子は研修(無収入)としてやらせてもらう約束だったのに売り子をやっていた
3月前半分の労働も給料を出すと自ら申し出てくれた。11月に話をした時、「払うつもり
はない」と言っていた人とは思えないが彼の意識を変える事が出来て、これまた大きな収穫
だった気がする。2月分の給料は1月よりも増えていてなんと手取りで1100ユーロ(約
16万円)だった。フランス人でもビエノワズリ・パン・販売の全ての部門を体験する人は
いないらしいが、やりたいと思っていた全てのことを叶えさせてもらえて、本当に幸せ。
この4.5ヶ月の間に多くの事を吸収できたと自信を持って言える。大変な仕事ではあったけ
れど、10年以上前に決めた目標をクリアし、何とも言えない爽快感を味わった。悔いはな
い。過酷な条件の中でしっかり働けたと思う。みんなとの別れは寂しかったけれど、達成感
と共に店を去ることが出来た。この1年のフランス生活の中でMegeve が一番長い滞在地
となる。
穴倉アパートも住んでしまえば都になり、一番落ち着く空間となった。小さな町だがかわい
らしく、物価が高いことを除けば住みやすい。またいつかスキーを担いで遊びに来る事を目
標に更なる歩みを進めることにした。