パン屋のこゝろ得 8 鈴木優子
ヴァンドーズ は 楽 しい!!
前回に引き続き 、 鈴木優子さんのフランスのパン屋さんで経験した売り子さんのお 話 です。
鈴木さんのフランスの食文化を体験したいと言う強い思いの中に は 、パンを売ること、パン
を買う人との交流も含まれていて、 「 そうか、そこか!」と感心しながら読んでしまいまし
た 。 売ることもブーランジュリーを知ることなんだと改めて実感出来 る レポートです。 同
店は現在は別のオーナーさんがパン屋さんを営んでいますが営 業 されているようです)
2007年 3月
パン屋・売り子修行 -続編
この店の形態は対面販売(フランスのパン屋はほとんど対面販売 でお客さんが指差す物
を店員が揃え、会計をし 、 商品を渡すというタイプでお客さんが 、 トレイとトングを持って
商品を選ぶ形式ではありません。
接客に時間がかかるし、パンもスライスを頼まれたり 、 タルトやケーキ 、 量り売りのドーナ
ツやクッキーを頼まれると店内を行ったりきたりする。優柔不断なお客さんがいると列が
できてしまうが、みんな行儀良く待ってくれるので有難い。
販売2週目に入ると朝メインのシフトになった。仕事の手順も覚え、レジの使い方もマスタ
ーし、楽しく仕事を続けていた。
朝はオーナーと2人で店番をするシフトだが「もうユウコに任せて大丈夫だから、忙しいと
きに呼んでね」と店を任され、彼は事務所で違う仕事をしていた。
私に任せて大丈夫なのか?!と思いながらも7時間の店番を1人でこなしていた。
オーナーとは製造をしていた時よりもゆっくり話し機会が増えて良かったし、すっかり認
めてくれて「製造の仕事だけじゃなく販売も完璧でスゴイよ」と他のスタッフにも言ってく
れていた。
製造を知っているので、店の商品が足りなくなると地下の作業場に行ってサンドイッチを
作ったりクロワッサンを焼いたり出来るから店としては助かる事もあっただろうとは思う。
接客をするのに毎朝テンション高く出勤するとビエノワズリーの仲間が「何かユウコ楽し
そうだね。ビエノアの仕事より売り子の方が好きなの?」と寂しそうに聞いてくる。ちょっ
と申し訳ない気分になるが「新しい事だから気合入れているんだよ」と返す。
特に朝の仕事では気持ちの良い接客を心がけたのだ。朝一番にパンを買いに行き、気持ちよ
く店を出て行ったらその1日が良い日になるような気がするから。店を去る人には必ず
「Bonne journee(良い一日を!)」と言う。朝も3日目くらいから常連の顔も覚え、焼き
加減の好みなども少しづつ覚えたので「よく焼きですよね」とバゲットを出すと「よく覚え
たねぇ」と嬉しそうに買っていってくれる。
子供がお遣いで買い物に来ることもあり、10€を手にお母さんに頼まれた物を注文してか
ら、おつりで自分の食べたい物を選ぶ姿が何ともほほえましい。常連に対してはツケがきく
のもスゴイと思った。日本でツケのきくパン屋ってあるのかな?
*お客さんウォッチング
パン屋に来る人たちを観察しながら仕事をするのが楽しい。
カップル事例1)旦那が主導権を握り、自分の食べたい物を注文し、最後に「なにか欲しい?
マカロンは?クッキーは?」と奥さんに聞き、旦那が注文・支払いをし品物を受け取り出て
行く。
カップル事例2)奥さんが主導権を握り、一通り注文。最後に「貴方は何欲しい?」と聞き
「チョコレートタルトを買おうよ」と旦那が言うと「そんなものいらないわよ」と却下。旦
那に支払いを任せ、荷物を持たせて店を出て行く。
カップル事例3)お互いが食べたい物を注文し、最後に意見がまとまらない。私が勧めた2
つのパンをバラバラに指さす2人。そして両方買っていく。
マダム事例1)私に対して「サンドイッチが欲しいのですが、何があるか説明していただけ
る?」と丁寧に尋ねて来て説明している間に子供が話しかけると「やかましーい。あたしゃ
今真剣に聞いているんだよ。邪魔するなら店から出てけーー!!」と怒鳴った後私には笑顔
で「じゃあハム&チーズサンドをいただけるかしら」と注文する人。この人の子供じゃなく
て良かったと思う。
良いお客事例1)こちらがお釣りの小銭が足りなくてなるべく細かく支払ってくださいと
みんなにお願いする事がある。それを聞き、小銭を持っていない紳士が、じゃあキリが良い
所までもう少し何か買うよ。と協力してくれる。
良いお客事例2)家族で店に入り、パンを選んでいる時に息子がくしゃみをした「食べ物の
お店の中でくしゃみするなんて失礼だから、あなたは外で待っていた方が良いわよ」と。余
計風邪ひきそうだけど、そんな気遣い、私にとっては新鮮だった。
面白いお客事例1)フレッシュなパンを売りにしているのに、「昨日のパンはないですか?」
と聞き、「全部今朝の焼きたてですよ」と言うと「じゃあいらないや」と去っていく。
面白いお客事例2)「私一人だから小さいパンが欲しいんだけど」というので小さめの物を
一通り説明してから、「あれ、美味しそうねぇ」と指差し店で一番大きいパンを買っていく
人。
その他、毎日同じものを同じ時間帯に買いに来るのはだいたい年配の皆さん。バゲットの焼
き加減の好みも様々で、私の統計的には年配の男性は良く焼けたバゲットがお好みで、若い
人は白いのを好む傾向にある。「チーズフォンデュをしたいんだけどどのパンが良いかしら」
とか「うちにスモークサーモンがあるんだけど、何を買っていけば良いかしら」とか「サン
ドイッチに最適なパンはどれ?」とか、食べ方を色々聞いてくる人は多い。
あと、面白いと思うのは「手提げ袋を2つにしていただける?なぜなら1つは友達にあげる
し1つは車で○○まで持っていくから」とわざわざその人の行動を説明してくれる人が多い。
ただ「袋もう1つ下さい」で終わると思うのに。
*時間帯別売れるパン紹介
7:00-9:00クロワッサン・パンオショコラ・バゲットのオンパレード
10:00 ブリオッシュ・量り売りドーナツなどのおやつ系+サンドイッチやタルトが
出始める。
11:00~ バゲット・ハード系(カンパーニュ・セレアル・コンプレ)
12:00前~バゲットピーク第一弾。1組の客につき2-4本。多くて8本。
14:00~ タルトの嵐。結構お高いのに飛ぶように売れる
16:00~ ブリオッシュ・ハード系+今すぐつまむ用のドーナツ量り売りや焼き菓子
18:00~ バゲットピーク第2弾到来
19:00~ バゲット・タルト・ハード系を中心に夕飯用のパンが出る
19:30~ 翌日の朝食やサンドイッチを作る様のパンと聞かれることが多い
4種類あるバゲットのほとんどが売り場から消える
20:00 閉店
一日に3回来る人もいるし、朝はオジサンが多い。朝の散歩(犬と一緒が多い)をしながら
本屋で新聞を買い、パン屋に来てパンを買う。「えーと、うちの奥さんは何が欲しいって言
っていたんだっけ」と思い出している人もいるし買い物リストを持たされている人もいる。
朝パジャマみたいな格好でコンビニに行く日本人は結構いると思うけれど、こちらでパジ
ャマみたいな格好で歩いている人はいない。朝7:00からちゃんとした格好をしているあ
たりが、粋な感じだ。
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