ジェフリー・ハメルマン氏

ジェフリー・ハメルマン氏

今回は「BREAD A Baker’s Book of Techniques and Recipes ━ パンを愛する人の製パン技術理論と本格レシピ ━」の著者Jeffrey hamelman(ジェフリー・ハメルマン氏)にご登場いただきました。
遡ること2016年10月、北海道美瑛町「bi.blé」にて開催された「藤井幸男記念・教育振興会」主催の講習会に講師として来日されていたジェフリー・ハメルマン氏(通訳として奥様の金子千保さんも参加)。
講習を通じジェフリー・ハメルマン氏のパンに対する情熱に魅了されましたし、なんといってもその人柄にも強く惹かれました。
いつかの日かまた取材をお願いしたいと思っていたので、今回の企画に登場をお願いしました。

→ 最初にハメルマンさんの一番古いパンの想い出をお聞かせください。 「食べた記憶、作った記憶などどちらでも構いません」
ジェフリー
「少年時代、週末には母方の祖父母の家に行くか、または祖父母がうちに来るかしていました。祖母はロシアとポーランド系の移民の子供で、彼女にとってパンは食の中心でした。祖母と一緒の場には必ずパンがあり、少なくとも私の記憶では、美味しいパンだったように思います。当時のパン屋の多くは労働組合に所属していて、組合のマークが入った紙のシールがよくパンのお尻についていたものです。今では考えられないことですね。子供の時に食べたあのパンをまた手にとって味わってみたいです。」

自宅でパンを作る様子。アメリカのニューイングランド地方で昔使われていたパン捏ねの器(これは樺の木をくり抜いたもの)を使った手捏ね

家で焼いたライ麦パン。右にあるのはセミナーのための試作品で、100%ライ麦の生地にドライフルーツとチョコレートを混ぜたもの
→ いつかそのパンを作る機会がありましたら呼んでください笑。
6月にキング・アーサーを退いたと聞きましたが、現在はどのようにパンと関わっておられますか
ジェフリー
「14ヶ月前に退職してから、スペインで2回のパン講習会、パリで2週間パン製造、ワシントン州、イリノイ州、ヴァーモント州で教え、ギルド(The Bread Bakers Guild of America)の3段階からなる製パン技能認定制度の作成委員を務めました。パンに関わるエッセイを数本執筆し、もう少ししたらロシアのサンクトペテルブルグの二つの講習会のために出かけるところです。これ以上忙しくなるようだったら、また仕事に就いてゆっくりしたい!と冗談で言っています。パン作りに対する情熱や姿勢は以前と同じですし、これからも変わらないでしょう。」


今年の2月に開催されたスペインマドリットでのセミナーの様子

今年の5月にパリの La Fête du Pain にアメリカのパン職人チームが参加し、その期間中に、ノートルダム寺院でパン職人を祝福するミサが行われた。これはアメリカ人パン職人達がPain Béniを掲げて行進するシーン。
→ セミリタイアされてから更に忙しくされるとは!!次にアメリカのパン事情に関してお聞かせください。
おおよそで良いのですが、アメリカにはどのくらいの手作りのパン屋さんが存在し、どのようなパンが主に作られていますか。
ジェフリー
「アメリカに手作りのパン屋がどのくらいあるのか私には見当もつきません。ただ言えることは、私の人生において今ほど質の良いパンを作る小規模のパン屋がたくさんある時代はなかったと思います。製品も、様々なサワー生地のパンから、優れたフランスパン、 挽きたての粉(農家が挽く場合もあればパン職人が自ら挽く場合も) で作ったパン、アインコーンやスペルト小麦などの伝統品種を材料にしたものまで実に多岐にわたっています」

→ 北海道美瑛町でハイ・エクストラクションという粉でハメルマンさんが焼いたパンのことを思い出します。それでは次に本年トラン・ブルーの成瀬正氏を講師として呼んだ「ギルド」とはどのような方が会員の対象ですか。また会員数や活動内容を教えてください。
ジェフリー
「ギルドは、教育機関として1993年に設立されました。今、2000人近い会員がいると思います。会員の中には、プロのパン職人、家庭製パンの人、パン業界に何らかの形で携わる人などで構成されています。例えば機械や材料の販売業者なども会員です。3年に一回行われる「ウィートストーク」というイベントの他に、講習会を年に15回ほど全国各地で開催しています。」


北海道でのセミナー時のハイ・エクストラクション粉のパン

→ アメリカは広いので、規模も違うのでしょうね。運営される皆さんも大変なご苦労があると思います。北海道での講習会の際に話の出たワシントン州立大学の「The Bread Lab」ですがどのような経緯で発足し、主にどのような研究をされていますか。また、所員数などもお聞かせください。この機関によってどのような効果が期待されているのでしょうか
ジェフリー
「『The Bread Lab』は、スティーヴン・ジョーンズ博士(※1)が10年近く前に始めたものです。彼は小麦育種の最先端を行く人物で、彼の研究は、小麦のフレーバー、栄養価値、品種の地域性といったことを重視しています。これは、現在世界の小麦市場を支配する価値観とは正反対の立場です。『Bread Lab』では毎年4万種以上の穀物品種を試験栽培し、その中から優良種を選択・交配して品種改良を行っています。毎年7月には『Bread Lab』を会場にグレイン・ギャザリングという3日間のイベントが行われます。また、キング・ アーサー・フラワー・カンパニー(※2)は早くから『Bread Lab』の主旨に賛同して協力を続けています。西海岸における教育施設を開設し、プロのパン職人用のクラス及び家庭製パンのクラスを行っています。」

『Bread Lab』で焼かれたパン
→ 『Bread Lab』はビル・ゲイツ氏も訪問されたと聞いていまし、 アメリカのそういった研究機関のおかげでパンの未来は明るいように思います。最後に著書「BREAD」を出版し、世界各地で翻訳されパン職人のバイブルとなっています。現在も色々なところから講師の依頼があるようですが、そのあたりの活動の様子をお聞かせください
ジェフリー
「確かに、先に述べた活動の多くは「BREAD」の出版から派生したものです。この本のおかげで世界中のパン職人と出会う多くの機会に恵まれました。そういう意味では本当に幸運なことだと感じますし、私のサワー種(1980年の8月に自分で起こしたものです)とともに6大陸でパンを焼いたことを思うと、顔がほころびます。とはいえ、パンの世界は常に進化しているわけですから、私の本の成功云々にかかわらず、これからもっといい本が確実に世に出てくることでしょう。パンの世界が前進するため、それは大事なことです。」

最後のお話はハメルマンさんの人柄が出ていると思います。これからもお身体に気をつけて美味しいパンを焼いてください。
いつかハメルマンさんがパンを作る姿をレポートしたいと思っています。今回は有難うございました。

そして最後にこの企画はハメルマンさんの奥様千保さんのご協力が無ければ実現しませんでした。心より感謝致します。

※1
スティーヴン・ジョーンズ博士

Dr. Stephen S. Jones, Director


Washington State Universityの遺伝学の教授で、同大学の施設である『Bread Lab』の所長を務めています。

※2
King Arthur Flour Company(キング・アーサー・フラワー・カンパニー)は、アメリカで200年以上の歴史を持つ粉の会社。
1996年以降従業員が自社株のオーナーとなる企業形態をとっている。

ジェフリー・ハメルマン氏 プロフィール
長きに亘りプロのパン職人として活動してきており、職人、講師として製パン分野にて様々な活動を行ってきた。
1996年パリで開催された「クープ・デュ・モンド・ド・ ラ・ブーランジュリー」にてアメリカチームのキャプテンを務める。
1998年アメリカ合衆国76番目のサーティファイド・マスター・ベイカー(Certified Master Baker)に認定された。
2005年ブレッド・ベーカーズ・ギルド・オブ・アメリカより長くベーキングに貢献してきた功績を称えられゴールデン・バゲット賞が贈られる
1999年より2017年までヴァーモント州 ノーウィッチ キング・アーサー・フラワー・カンパニーにてベーカリー所長を務める傍ら、併設のベーキング・エデューション・センター所長も務めていた。

写真右 金子千保さん