パン屋さん

パン屋噺 2 エグヴィヴ

パン屋 噺

エグヴィヴ

丹野隆善

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薪に関してお聞きしたいのですが

丹野

うちも実は今年は薪がかなりまずい状態で。丸太が色々な事情が重なっ て入ってこなくて、今年はもう休みの日は薪割りばっかりやってまし た。去年からなのですが、もう割って、本当だったら去年のうちに今年 の今ぐらいに使う分とか年内分ぐらいは去年のうちに割っとくのが一番 いいんですけど。夏ぐらいまでしか無くて。だから9月以降は今年の春割 った薪なんです。

大事なパーツですものね。

丹野

そうなんですよね。で、やっぱり乾燥をちゃんとしてないと本当にデキ も悪くなるので、そこがねぇなんともこう。

薪割りのご苦労はなんと無く分かるのですが。。。

丹野

まぁそうですね。いや、だから薪の材とか乾燥具合とか

現実的に言うとやっぱり一年分は割っておくのが都合が良いのですか?

丹野

乾燥そうですね。半年。イタヤってカエデあるんですけど、この辺 の。イタヤカエデなんかだったら半年ぐらいで何とか使えるんですけ ど、ミズナラとかは、薪やなんかではこの辺で一番いいんですが、日持 ちがよくて。カロリーもあって。それだとやっぱり抜けないんですよ ね。だからやっぱり7カ月~8カ月、できれば1年ぐらい乾かすと

薪の状態はカラカラに乾燥というわけではないのすね

丹野

やや水気あって、カロリーはありそうなんですけど、2回目火を入れる ときは、よく乾いてる方が温度の上がり方がスパーンと上がるんです よ。で、スーッと下がってくるぐらいの方が2回目の火なんかには良か ったりします。だからもっとより細かくて、より乾いてる方が、そうい うスパーンって上がって。こうネチネチっと温度を上げちゃうとなんか 下がり方も重たいっていうか。

最初と2回目で、そんなに求められるものなのですね

丹野

変に焦げちゃったりとか、焼きの上がりが強そうな、不自然な焼きにな ったりするので。

その辺の木の変な言い方ですけど、お値段っていうのは変わるんです ?木によってやっぱり

丹野

本来は違うんです。ミズナラが一番高くて、イタヤはで、カバとか、 そういう一般雑木っていうやつになると、もうちょっと安くなるんです けど。うちの場合ごそっときて一式いくら一式って薪の単位なんです けど、いくらっていうことになって。で、そこの混ざり方が均一じゃな いんですよ。しょうがないんですけどね。ナラ切ったらナラだけになるし、イタヤ切ったらイタヤだけになるっていうのはしょうがないんです けど、もうちょっと混ぜて持ってきてくれたら適度に混ざっていいなと 思うんですけど。

物理的な話なのですが、薪割りは1本、1本割っているのですか?

丹野

薪割り機って油圧の機械はあります。そのほか運んだり、それなりに労 力は掛かりますけど。

ほぼ、おひとりでこなしておられるので大変ですよね 時間もそろそろ……これからのビジョンはどうですか?

丹野

先ほどの話と重複する部分ではあるんですけど。規模拡大とかって言う よりは、むしろ逆の方向で自分たちの恐らく体制はそんなに変わらない と思うんで。ただ、自分達が年齢的にだんだん弱くなっていくっていう か。それに合わせた無理のない方向に、でもそこから出てきたゆとりか らやれる

はい、はい

丹野

新しいことって言うより

アナグロですか

丹野

的な方向に。もし、ゆとりが生ずるんであればそっちの方に余力を回 せたら、なんかいい方向に行くんじゃないかなっていう。

仕事以外であります?また旅に出たいとか

丹野

フランスはたまに行ってます。あんまり遊びたいとかはないんですよ ね。ただまぁ、いろいろ見てみたいし、食べてみたいし、まだ見ないも の、見てないものとか何度見てもいいなと思うものはあるので、そうい うものは出会いたいですけど。それこそピンポイントで目的地に行く旅 って結構やっぱり出会いが限られてるなと思ってて。僕ら若い頃、二十 何歳で半年間二人で旅して歩いた時って、本当地図だけ見て『じゃあ次 ここの道行こうか、町へ行こうか』って。何の情報も無いのですよ。町 の観光案内所に行って宿探して、ぶらぶらしてって。ネットはあるわ けでもないので。そういう旅行だったんですけど、やっぱりなんかその ほうがその時、その時、移動も含めたその時、その時に集中してるって いうかしっかり見てるっていうか探そうとしてる。

忘れないですね、きっと。そうするとね

丹野

そういう時の出会いが、物とか人とか、良かったなぁと思うんで。彼女 なんかはどっかで一回子供をある程度あれしたら彼女は1人でも、行き たいって言ってるんですけど。『なんかああいう旅しない?』とは言わ れてるんで、それもいいなぁとは思いますよね。

でも、その薪の問題とか現実問題も丹野さんはね、しっかり考えなきゃ いけないから。そういう余力ができると良いですよね、そうするとパン にも多少は影響が出てきますよね

丹野

そうですよね。例えば前の窯だったら窯の話で言いますとキャパが小 さかったのですよ。それでも今と同じくらい焼いてた時っていうのは3 転ぐらいさせてたんですよ、ハード系を。そうすると1回目と3回目は無 理があるんのですよ。2回目を例えばバゲットなんかばぁっと入れて、一 番いいところの良い環境をこしらえてた。そうすると、1回目と3回目は 無理があるんです。そういう無理を無くしたいんですよね。

そういうのってなかなか日常だから難しいですよね。

丹野

うん、そうなんですよ。

目の前に転がってることなんですけどね。わかります。

丹野

でもなんかさっきの抜け感の話じゃないんですけどね、やっぱりどっか で僕ららしいっていうのは、もしかしたらもうちょっと垢抜けない部分 も必要なのかもしれませんしね。ついつい意識高めに、より高いところ っていうか、より完璧な環境を求めようとするんだけども、なんかもう ちょっと力抜いて自然にパンに向き合えるぐらいの方がもしかしたら合ってるのかもしれませんね。なんとなく、こういう環境と。ただ、もう ちょっと人間丸くならないとそこに至らないし

 

そうですか?

丹野

より丸くならないと。

我々の前ではかなり丸いですけど

丹野 丸いんですけど、結構ギラギラしてるんで。ギラギラゆらゆらしてるん で、内心。なので、もうちょっと心から丸くならないと

ご自身はそう思っても、周りがそうじゃない時もありますもんね。丸く させてくれない時ありますもんね

丹野

でも、あんまりないんですよ。結構夏だったら草刈りをしたり、山ある んですけどね、薪割る作業場。結構斜面とか平らなところを含めて結構 あるんですよ。そこを乗ってやる草刈り機で綺麗にやって、その中で薪 割りやって、ちょっと夜涼んで散歩したりお花植えたりとか。仕事の日 は朝からパン焼いてとか。それで結構満たされてるんですよね。

あ、そうなんですね。

丹野

俺。そんなん無いんですよ。願望はそんなに無いんです。

でも必ず年に1回はフランスとかは行かれてる感じなんですか? 丹野

娘が今住んでるのもあって、行かざるをえなかったり。

娘さんが向こうに、いらっしゃるのですか

丹野

それも一つとまぁでも行ってますかね。ただ、窯買ったのがオープン して7年目ぐらいだったんですけど、その7年間って全く行けなかったん ですよ。買うのをきっかけに行き、その時たまたま今行ってる娘が小学 校入る年だったんですけど二人でリュックしょって行ったんですよ。そ れが結構きっかけで、3人子供いるんですけど、小学校に上がる年に俺と 一緒にフランスに行くっていうのがなんか通過儀礼みたいになっちゃっ て。みんな3人ともそうさせたんですよね。だから1人はビアリッツとか のバスクの方まで飛行機で飛んで、そこから車でマコンまで行ったりと か、エグヴィヴとか通って。もう一人はナントの方いったり、アルザス の方ナントじゃなくナンシー、アルザスの方行ったり。で、また今度 中学校に入る時には今度ロンドンに連れて行って南仏行ったりとかって 言いながら、俺もパンいろいろ見ながら歩いたり。お世話になったところに顔出して一晩仕事見せてもらったりとか。あと窯屋だけ見に行った りとか、いろいろ行ってはいますね。ですので、パン絡みですかねフラ ンス行くのも。

行けば少しは仕事絡みになりますよね

丹野

生活とか文化とか、精神とか、なんかそういうのに触れたいなっていう か。あぁ、だからこういうパンなのかな、みたいなそういうのを理解し やすい。なかなかパンだけボーンとあってこれをおいしいと思えって言 われても理解できないようなところを、作る側としてそっちが大きいか もしれませんね。

それはちょっとなかなかそういう方はいないですね。

丹野

でもなんかあるような気がしません?

すごくわかります

丹野

僕はそういう行く目的って言ったらそっちがけっこうあるんで。なんか だからいいんですよ、空気吸ったり、普通に別に観光するわけでもな く。

はい

丹野

そうなんですよ。高速道路とかああいうところにいると『あれ?ここフ ランスなのか?』と思う時もあるんですよ。おいしいバーガーなんかも 向こうは、流行ってるじゃないですか。ああいうのなんか見ると『あ ?ここフランスなんだっけ?』とかって思うのですけど、やっぱり田 舎の方には、こういうパンしかないようなところへ行くとやっぱり当た り前なんですけど、全然パンなんて特別なもんじゃないんですよね。なんかこの距離感がまた『いいなぁ』と感じますね。特別な感じが無いですから。

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