パン屋さん

パンを楽しむ料理  7 鈴木優子 フランスパン屋さん研修

パンを楽しむ料理  7  鈴木優子

フランスパン屋さん研修

今回も鈴木優子さん フランス食文化放浪記をお送りします。これまでチーズ ワイン編をお届けしましたが、今回から パン屋で 勤務した話を紹介 します。

※「パン屋 こゝろ得 7」でもフランス パン屋さんで 販売を担当した様子を お伝えしています。(鈴木さんが研修されたお店 は現在 他 オーナーさんが 営業を継続しています)

サンテミリオンから13時間かけて MEGEVE(メジェーブ)という町に来た。

 

ここ 夏にいたアヌシーとシャモニ 間にある町でブルジュアな方々 別荘地 として有名らしい。特に冬 スキーリゾートとして多く 人が訪れる町である。こ こに1つ パン屋があり、今回めでたく働ける事になった。アヌシー チーズ屋 シェフと話をしていた時に「メジェーブに有名なパン屋があるけれど知ってま すか?」と尋 たら「そこの シェフを知っているよ。研修したいなら手紙書いてあ げるよ」という事で、推薦状を書いてくれた。そして、パン屋で 快く迎え入れて くれたというラッキーストーリー。スキーリゾートにあるパン屋というちょっと下心 バレバレな感じで あるが、パン屋で 修業が始まった。パン屋まで歩 いて5分 の場所に季節バイト用 アパートがあり、そこの 1室を使わせてもらえ ることに。サンテミリオンからメジェーブに到着すると既に21:00を回っていたが、修業先のスタッフが迎えに来てくれアパートを案内してくれた。部屋 15m²ほど 場所にベット・テーブル・調理コンロ・水道・トイレ・シャワーが整っていて、問題 なく生活できる‥‥2つ ことを除いて 。

1つ、窓がない。日光を全く感じること が無い生活、結構ストレスになるが夜勤が多いパン屋 こと、昼間にしっかり 眠れる様にという配慮だと前向きに捕らえる。

そして2つ、とてつもなく寒い。部 屋 地下にあり、暖房 あるが何世紀前 も だろう?というくらい古く、たまにしか動かない。

寒い どう前向きに捕らえたら良い か未だに分からないが 慣れるしかない。翌日シェフを尋 ねて挨拶に行くと「明日から仕事だ 。朝2:0 0に来てくれれ 良いから 。」と笑顔で言われ、「2:00ですね 」と笑顔で返し ながら内心ビックリ。深夜の2:00 は朝な のか?!早いと覚悟していたが いきなり2:00と は・・・。

2006 年 11 月

人々が夢を見ている間、長年 夢を叶えるため、いつかフランスの パン屋で働きた いと思ってフランス語を習い、パンに携わる仕事をして10年以上が経過した今、 私 はフランス のパン屋で働いている。夜中 寒い中ベッドから抜け出して出勤 する ラクで ないけれど、毎日とてもトキメク瞬間がある。暗い中街を5分 ほど歩いて出勤し、角を曲がると店が見えてくる。周囲に パンを焼いている 香りが漂い、大きな石釜が置いてあるパン屋の ウィンドウに灯が点り、中では、真剣な顔つきで忙しくパンを焼いているスタッフが見える。 スタッフが気づくと外 から手を振る。とても暖かい感じがして、早く起きて得した気分になる。この光 景を見るために早起きしていると言っても大袈裟で ないと思う。毎日何とも言 えない温かみと喜びを感じ店に入って元気に「Bonjour!」と挨拶し、一日 の仕 事が始まる。

店に入ると夜中仕事をしている気分 が無くなり、1日の始まりとして しっかりと働く事が出来、気分が良い。充実した日々、私 今、夢を叶えている んだと実感できる。

<生活リズム>

1:20 起床 着替え、紅茶を1杯飲んで1:45出勤

神様 が、気が向くと私に“満点 星空”というご褒美を下さる

2:00 作業開始 まず サンドイッチ作り。3種の パンを利用して8種類 サンドイッチを作る。
ブリオッシュ 仕込みをし、成形してから冷凍する。
5:00 作業をしながら朝食を食べるNO1(コーヒー&やきたてクロワッサンなど)、その日足りないもを仕込み、クッキー生地・パイ生地・ケーキ など。在庫を補充する。クロワッサン・パンオショコラ・ブリオッシュ類を天板に並べる。 9:00頃 作業終了・掃除 早い日 だと8:00前に終わり、帰り道も辺りは暗い。家 に帰ってゆっくりコーヒー&パンを食べる朝食 NO2. そして1~2時間ほど昼寝。
11:00 起床し、掃除や買い物を行う
12:00 ランチタイム 野菜とパンで簡単に午後 散歩・買い物・洗濯などで 過ごす
16:30 ビールタイム シャワーを浴び、美味しいビールを味わいながら夕飯 準備
17:00 ワインタイム パンとチーズと野菜スープなどで1人宴会を楽しむ 18:30頃 就寝

今まで夜中2:00まで居酒屋で騒いでいたり、ワインを飲んでいたりという生活した事があるけれど、2:00から仕事をするのは始めて。

ハードな生活で、 生活 リズムもつかめず、食欲も無くなってげっそりやせてしまうかも?!とい う心配(いや、期待)をしていたのもつかの 間、3日で生活に慣れ健やかに育っ ている。

焼きたて クロワッサンやパンオショコラが目 前にあると、ついつい つまみ、焼きたて バゲットを持って帰るとついつい食べてしまい2回目の朝食を楽しみ、昼 も夜もついつい沢山食べてしまう。バゲットを食べる事が多い ためか、食後 ア ゴとこめかみが疲れる。仕事や散歩で動いて いるけれど、どうなってしまう だろう・・・。

Megeve という町の真ん中に構える店 本当に山小屋風で木の風合いが何とも 暖かくて素敵なお店だ。パン 籠に入れられている量り売りのクッキーなどが、網に 入って天井から吊り下げられたりしている。冷蔵ケースに 綺麗にデコレーショ ンされたケーキ類が並べられえている。オーナー は2000年にフランス 最優 秀職人(MOF)パン部門 資格を取得し、現在30代後半でバリバリ働き盛り。 本店を中心に半径約10km 範囲で 6 店舗を展開している。本店 は無休で毎日7:00~20:00で営業している。

<仕事内容>

お店での仕事は、 主に3つに分かれている。

バゲットやカンパーニュなどを仕込から 焼成まで行うパン部門、ブリオッシュ、クロワッサンなどとサンドイッチを作るビ エノワズリー部門、そして売り子部門だ。

今、私は ビエノワズリー部門 製造スタッフと共に 働いている。作業場は地下にある。アパートも職場も日光に縁がないらしい。

出勤するとまず3種 類 パンを利用して8種類のサンドイッチをその日、指示された数にあわせて作 る(合計40食くらい)生ハムやチーズをふんだんに使っているサンドイッチ 自分がかぶりつきたくなるし、バゲットにバターを塗ってチーズとハムが挟ん であるだけで充分美味しい。

6店舗分 ほとんど全て 商品を私のいる本店で 焼き、朝5:00になるとオーナーが車で商品を運ぶ 。5:00までに全て 商 品を揃えなけれ ならない。ケーキ類に関しては、本店から歩いて 15 分ほど 所にある支店の厨房でパティシエが作業し、6 店舗分のケーキを作る。

各店舗 へ パンを積み終わり、オーナーが出発した後 ブリオッシュの仕込み をして成形冷凍してある在庫にあわせて成形を行う。ブリオッシュ 1種の 生地 から8種類 商品を作っている。その他に パンドミ 仕込み、成形、焼成を行う。

そして次の日の 準備でクロワッサンやパン  オ ショコラ、ブリオッシュ 全種類を 天板にならべ数を揃える。フーガスと呼 れるピザ 様な生地にハムやチーズ をトッピングする。クロワッサンとパンオ ショコラ 売れ残り 各店舗から戻ってきたら、カットしてアーモンドクリームをたっぷりサンドしてから焼成し、もう一度製品として生まれ変わる。これもすぐに焼ける状態に準備しておく。

製造スタッフ が、一人で焼成している間、私 はそ 日にやるべき事をみつけてサッサと作業を 進める。

それぞれ別の作業をしている事が多いが、仕事が一段落すると色々と おしゃべりもする。

オーナー は仕事が大好き、真面目で優しい38歳。奥さん と5歳の娘がいる。誰もが認めるチョー良い人。パリ出身で15歳からパリ お菓子 学校に通い4年間勉強。その後様々な洋菓子屋・パン屋・レストラ ンで働いている。

曰く 同じ店にずっといる 発展がなくなると言って5年ごと に職場を変えている。そして自分の 専門であるお菓子だけでなくレストランに入 って料理をする時もあるらしい。自分が帰る時間が遅くなっても、心をこめて作 業をする職人、 お手本 の様な人だ。

日々、私も物を作る喜びを感じながら作業している。やはり、自分が 作った物で 誰かを幸せにしたいと思うし、お客さん 胃袋と心を満たせたら素敵な事だと 思う。

サンドイッチを作る時は、 同じ材料でもいかに美味しそうに見えるか、食べ やすく出来るかを考えながら作業している。どんな人がどんな状況で食べる かしら?!とか色々考えながら。

仕事の後、散歩中に町で私が働く店の袋 を持っている人がいるとついつい中身が気になるし、歩きながらサンドイッチを 食べている人を見かけると「それ私が作ったんだけど美味しい?」と話しかけた くなるし、笑顔で食べている人を見ると明日も頑張るぞ!!という気分になれる。 こうして毎日小さな幸せを感じている。

今回はフランスのパン屋に勤務している。何より、ア パートを提供してもらっているが有難い。しかし、自分の 専門分野だ けに無給と決まって少々傷ついた。

仕事を始めて2週間ほど経った時に、オーナー と確認の意味で話をした。

「私 ここで2月末まで働く予定ですが、12 月に入り 忙しくなったらお給料を出す気 ありますか?」と尋 たら「すごく良く働いてく れて、とても助かるし感謝しているけれど払うつもり ない」と言われた。冬に 向けてスタッフ募集している事も HP を見てチェックしていたし、他の人も 同じア パートを借りてお給料をもらっているのに私はなし。この差が理解出来ず、なぜ私が 同じ土俵に上がれない か知りたくていくつか質問した。

今まで日本人を研修で受け入れた事 何回もあるらしいが一回も給料を払っ た事 なく、交渉してくる人もいなかったようだ。「お給料を払う人に 責任を与 えるが、君に 責任を与える で なく誰か 補助という形で仕事をしていっ て欲しい。」と言われた。

納得というか、話してももう無理だと思ったので、「分か りました。状況を理解するよう努力します。研修としてやっていきます。」と話を 終えた。

お給料をもらえない事が、分かって来たお店だけれど自分の働きを見た ら気持ちが変わるも?!と少し期待を持ち真剣に仕事をしていた。

今までパン 業界で働いて来たというヘンなプライドもあり、自分 存在意義をアピールした かったが、そう上手く いかなかった。お給料を払ってもらえない事で なく、 1人のスタッフとして認めてもらえない、いわゆる「おみそ」としてしか扱われて いないことに寂しさ・悔しさを感じ、複雑な思いをした。

が、そこで不平を言っても始まらない。仕事が楽しく出来ないのも勿体ないから、 長年 夢を叶える場所を提供してくれたオーナーに感謝しながら仕事をするこ とにした。マイナスな事ば かり考えていても自分も楽しくないし、折角同じ時間 が過ぎるなら、楽しんじゃった方が 勝ちだと思う。

食べて行かれない訳で ない し、お給料以上の 物をここで学び取り、それをヒントに日本で稼げる何かを見つ ければ良い。

そして、2月末にここを離れる時オーナーに「働いてくれて助かっ た」と言わせ、次来た日本人に お給料を出す気にさせよう!と決めた。

そう 思ったらまた頑張る気持ちが沸き、日々真剣に働いている。

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