製パン基本のき 5
ベッカライ ブロートハイム
明石克彦
「データ」
今でこそ「データ」という言葉を耳にしますが、ベッカライ ブロートハイムでは開店当 初から日々パン作りのために記録を付けていたそうです。
今回は、そのストーリーとポイ ントをお聞きしました。
明石さんが「データ」を取るようになったきっかけの一端を聞けました↓
明石 新宿のお菓子屋さんに居た頃の話なんですが、スフレタイプのチーズケーキを洋菓子の工 場で作っていました。卵白をホイップする工程のレシピに、6 分立て、7 分立て、8 分立て と書いてあるけど、6 分や 7 分の度合いがわからなくて。
―そうですよね、何分立てと言っても目安は個人差ありますものね
明石 そう。それとこうやってホイッパーで何滴落ちるまでとかっていう表現だからわからないのですよ。当時はネジで巻くストップウォッチしかありませんでしたけど、それで計りました。何分このミキサーで回すとか、この量だったらこれが 6 分立て、8 分立てと言うのを計りました。だからそれがあったんで、ハンスローゼンに行った時に「あ、時間と か温度とかきちっととればいいな」って思い付きました。
ここから本題に入ります。
最初に 「データ」を取りはじめた理由からお聞かせください。
明石 26 歳の時にハンスローゼンに入った頃の話になるのですが、当時同じ歳のチーフが 居まして、歳は同じでも僕よりキャリアがある人でした。毎朝 8 時頃くわえタバコで厨房 に入ってきて、90 コートのミキサーボウルに入っているフランスパン生地をパンチするの ですよ。で、また上にあがって。今度は着替えながら新聞読んでまた一服して。気分が乗ったら降りてきて分割を始めると言うような感じでしたから毎回生地の状態が違うのです よ。
笑 昔の職人さんのイメージですね
明石 そんな感じなので、どうやったら良いパンができるかわからないわけですよ。そこ で新宿に居た頃の経験が活きたのですよ。時間を計れば良いんだと。
流石ですね、くわえタバコとかに気がいってました
明石 計り始めて気が付いたのですが、パンチの後、45 分の時もあれば、1 時間の時もあるし、早いと 30 分ぐらいで降りてくる。
時間を計ってみたものの〜
明石 毎日違うから、変なタイミングで分割されちゃうと良いパンできないから、めん台 に生地をあげないようにしたり。
笑 ご苦労様です
明石 ミキシングも低速でだいたい何分ぐらいとかだったので、それだと美味しいフラン スパンが偶然にしか出来ないのですよ。美味しいパンをコンスタントにつくろうとすると、 ちゃんと時間を計らないと思ったのですよ。
そうですね
明石 当時はガラスの温度計だったので、温度を計り始めると、ちょうどいい温度の時にフッと抜いちゃうんですよ。本当にその温度なのかどうか…触ると全然違う。
それまた面倒ですね
明石 だからこれちゃんとデータとらないとまずいし、自分のためにならないなと思って。それで当時まだデジタルの温度計がない時代で、今度は VU メーターの温度計を会社に何度も言って買ってもらって 。当時 10 万円位の高価なものではありましたがそれで温度を測 るようにして。やっていくと徐々に少しずつですが精度が上がってきました。フランスパ ンの良いのができる率が上がってきました。「あ、なかなかいいぞ」と。
それは、明石さんの性格もありますよね。思い付くという
明石 まぁね。地道に努力をするタイプだからこう見えても 笑。
いやいや、無駄に過ごさないでどういうふうに持ち帰ったら…っていうことだと思います。考えてる人もいれば、考えない人もいますから
明石 先週の土曜日サンドイッチだけで 12 万売り上げたのですよ。普通じゃ難しいと思い ますよ。例えばテープを前日、全部一個一個カットして折り目をつけて、全部とめれるよ うに用意しておくのですよ。それと、サンドイッチをフードパックに入れる時にペーパー ナプキンを折りたたんであるのを広げてそこにサンドイッチを乗っけていれるんですけど、 毎朝広げるのが面倒なのですよ。
聞いているだけで、面倒です 笑
明石 朝、忙しい時に 1 枚一枚、だから 10 枚こうやって折ってあるのを間に紙を入れてパ っと広げると 10 枚広がるようになってるの。それを前日準備するだけで朝のペースが全然 違うのですよ、面白いよ。
面白いですし、明石さんのそういう姿勢が素晴らしいです
明石 いや、その積み重ねですから、だから、そのために工夫はするものですよ。 そうすると朝ぽんぽんサンドイッチが思った時間に思った数並べられますから。「え?こん なこと?」って思うようなことが面白い
そういうのは、どのタイミングで思い付くのですか?
明石 もう 1 週間やったら「あ、これが原因」「これが原因」「これがまずい」ここをこうやったらもっと早くなるっていうのがわかる。
そういうデータが仕事に役立つのですね
明石 そう。まさにそうです。それでね、これはもともとフードパックをセロテープで普 通に止めちゃうと年配の方は開けられないのですよ。で、セロテープってすごいからフー ドパック壊さないと開けられないのよ。そしたら、ここに折り目つけておいてあげれば開 けられるじゃない?で、これをずっとやってたら、これを作るテープカッターがあること が分かりました。こうやって引っ張って切ると、なんかスプリングが、ガチャンって戻っ た時に少し折れるやつがある。それを見つけたの。
同じこと考えてる人が居たのですねですね
明石 考えてる人が居たんですよ、うん。でもね、それハズレが多くて。伊東屋でも売っ ているんですよ。
笑 ハズれますか?ブロートハイムにはそういうひと工夫が沢山ありますよね。ライ麦パ ンの分割とか。あの分割見かけると、ん?この人明石さんの講習会に出たことあるのかな? とか思って見ちゃいます
明石 講師をやらせてもらうと「これ使わせてもらってもいいですか?」っていうから、「どうぞ、どうぞ。そのために講習会ってあるんだから」って。「俺はさ、講習会でパンを教えられないからこういうことしか教えられないんだから」って笑。「籠使うとめん台汚れないだろ?」って。
ここからは定期有料購読者限定の記事となります。