パンの資料

北海道小麦便り② 江別の春

北海道小麦便り②

江別の春

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3月も下旬にさしかかり、北海道・江別市には少しずつ春が近づいてきています。日が長くなり、雪も少しずつ溶けて、歩道のアスファルトがくっきりと見えるようになりました。今回は「江別の春」と題し「江別」と「春まきの⻨」にスポットをあてます。

取材協力:江別製粉株式会社

http://haruyutaka.com/

北海道産小麦の生育の特徴、江別の小麦の特徴

・春まき、秋まきの違い

北海道の小麦は、大きくわけて春まき小麦と秋まき小麦があります。雪の解けた4月初旬から中旬にかけて種をまき、8月中旬に収穫するのが春まき小麦。「ハルユタカ」「春よ恋」「はるきらり」など、パンづくりに適した小麦品種を多く有します。一方、秋まき小麦は9月中旬に種をまき、越冬させ、7月下旬~8月初旬に収穫します。春まき小麦と秋まき小麦では、生育期間が全く異なるのがおわかりでしょうか?北海道には長い冬があり、冬を考慮しながら一定以上の生育期間を確保する必要があります。生育期間の長い秋まき小麦の方が、収穫できる量が多い傾向にあり、北海道産小麦の生産量のうち、およそ9割を占めます。

「ハルユタカ」・・・30 年以上前から栽培されている春まき小麦。穂発芽や赤かび病に弱く、生産量が不安定なため、人気はあるのに入手が困難な「幻の小麦」と呼ばれたこともあります。「初冬まき栽培」など産地の努力と工夫で作り続けられている希少品種で、流通量は全体の1%以下。そんな中で江別市はハルユタカ生産量の半分以上を作っています。

「春よ恋」・・・「ハルユタカ」にアメリカのパン用品種を交配してできた品種です。「ハルユタカ」の欠点である赤かび病や穂発芽への耐性が改良されました。多収で、パンにした時の品質に優れ、春まき小麦の中では最も多く栽培されています。

「はるきらり」・・・多収で、穂発芽耐性に優れ、倒れにくいなど「たくましい」春まき小麦です。栽培しやすい上に、製パン性も良いことから、作る側にも使う側にも優しい小麦です。

江別の基本的な話

・江別の位置と農業

北海道江別市は札幌市に隣接する人口12万人弱の都市です。札幌市の中心部からJR20分の位置にあり、札幌との行き来も便利で、緑豊かな住みよいまちです。市の面積の約40%は農地であり、大消費地札幌に隣接する立地を生かした都市型農業が特徴で、畑作・⾁⽤⽜の他、野菜や花など多彩な品⽬の農産物が⽣産されています。ブロッコリーの作付け⾯積・収穫量は道内1位となっています。

「麦の里えべつ」と言われる江別市の小麦生産はどうなっているのでしょうか。江別市の農作物作付面積を見ると、「小麦」は第1位、約27%が小麦畑で(2018年の実績)、石狩地方でも有数の小麦産地です。ただ、北海道全体でみると、道東の十勝やオホーツクが多く、石狩の小麦生産は7%(2018年)。全体として多くはありません。では、なぜ江別は「麦の里」なのでしょうか?そこには、先ほど述べた「ハルユタカ」の産地であるということに加え、小麦に関する取り組みを地域ぐるみで行ってきたことが関係します。

江別・江別製粉とハルユタカ

ハルユタカの物語は、北海道産小麦の物語。30年以上前に遡ります。古くからある日本の小麦は、パンなどを作るには品質が合わず、江別製粉でも北海道産小麦は外国産の小麦に少量ずつ混ぜて使っていました。しかし、1986年のチェルノブイリ原子力発電所の放射線物質や残留農薬などに対する不安などを背景に、一部の消費者から国産品を望む声が上がっていることを知り、江別製粉では、北海道産小麦100%でつくる小麦粉やミックス粉の試作をはじめました。そこで浮かび上がってきたのが1985年に登場したばかりの「ハルユタカ」。パン教室を主宰する先生にも、「これならおいしいパンが焼けるじゃない」というお墨付きをいただき、販売を始めたのです。「味わいがある」「甘くておいしい」など様々な感想やアドバイスをいただき、改善しながら、販売を進めていきました。

一方で、ハルユタカは栽培面での課題がありました。デビュー当初こそ「たくさんとれる」と歓迎されたものの、収量が安定せず、栽培農家や作付面積は年々減少していったのです。ハルユタカは病気に弱く、栽培が難しい。でも、ハルユタカを使った製品はじわじわと売り上げを伸ばしている。そこで、江別製粉ではハルユタカの栽培側にも関わっていくこととなります。「畑に種を直接まかずに、イネのように育苗してはどうか?」と考え、生産者の方々にお願いして育てる試みも行いました。最初のうちは「なぜ粉屋が畑にいるのか?」と怪訝な顔で見られもしましたが、次第に我が事のように考えてくれる生産者が出てきたのです。その中の一人が、当時江別市農協畑作振興会の会長を務めていた故・片岡弘正氏です。1992年、片岡氏は、秋まき小麦に混じっていたハルユタカのこぼれ種が、越冬して発芽しているのを発見。雪が溶けてから種を播くのではなく、雪が降る直前に種を播き越冬させる「初冬まき」の可能性に気づいたのです。そこから、専門普及員や農業試験場の研究員の助けを借りて「ハルユタカの初冬まき栽培」を確立させ、その技術は北海道内の滝川、下川、美深などにも拡がり、消えゆくと思われていたハルユタカは、命を繋いだのです。

江別・江別製粉と小麦

江別製粉は、北海道産小麦100%製品として、ハルユタカ以外の小麦品種の販売も進めていました。1998年には、江別で「江別焼き菓子祭」を開催。北海道産小麦「チホクコムギ」などを原料とした小麦粉と北海道産のてんさい糖を指定材料とするプロ対象のコンテストを行いました。江別では、以降4年ごとに小麦イベントが続いていくこととなりました。さらに、イベント実行委員を務めた生産・製粉・加工・研究などの小麦関係者のネットワークが深まり、「江別麦の会」「江別経済ネットワーク」といったチームで、小麦の安定生産のための栽培技術、江別産小麦を使った商品開発などが行われていくこととなります。江別市内の大手製麺業者、(株)菊水さんのご協力で「江別小麦めん」といったご当地麺も作られ、市内の飲食店で提供されている他、江別の小麦を使ったパン屋さん、菓子屋さんも多くあります。

江別市では、江別の畑から食卓までつながる活動を、市内の小学生向けに伝える食育活動も行っています。

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江別では、「えべちゅん」という江別観光協会認定のゆるキャラもいて、子供たちに慕われています。

頭が江別市の特産品でもあるレンガなので⾶ばない・・・というか重くて⾶べません。

好きなものは江別産⼩⻨。いつも右⼿に江別産⼩⻨の穂を持っていてその美味しさに感動の涙を流します。また感受性が豊かなので、⼩⻨を育てた農家さんの苦労を思い涙を流したり、⼩さいお⼦さんを⾒ると⽣まれたときのことなどを(勝⼿に)想像し涙があふれてしまう。(決して悲しくて泣いているわけではない)。

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江別製粉の北海道産小麦製品

・はるゆたか100・・・ハルユタカ100%使用 灰分0.44 蛋白12.0

・はるゆたかブレンド・・・ハルユタカ50%以上使用 灰分0.47 蛋白11.4

・春のいぶき・・・春よ恋100%使用 灰分0.46 蛋白11.5

・香麦・・・春よ恋50%以上使用 灰分0.47 蛋白11.5

「春」を土の中で過ごした「HW1号」「北見春47号」。「H〜」は「春よ恋」「北〜」は「ハルユタカ」の系統名です。国産の小麦は何かしら希望を込めて命名される事が多いですが、春まきの麦は俳句に季語が入るように「春」が謳われます。

小麦粉となった「春」はパンやお菓子、麺に加工され私たちの元に届けられます。主食となった「春」を江別市でも穫れる春穫れ野菜アスパラ、ブロッコリー、レタスなどを調理した料理と共に食卓に並べ旬を感じるような素材として提供出来るはずです。

他にも春の主役と言っても良い桜を使い、お花見気分を味わえる色合いのパンをお店に並べお客さんに癒しを届けられるような役割も担えます。

様々なイメージの有る国産小麦ですが、季節を感じさせる素材として今後、活用するのは如何でしょうか。

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