→PART1より
ここでは、気泡が安定する様子を絵で示してありますけれども、生地をミキサーで捏ねて空気を取り込んで、それをイーストがはき出した二酸化炭素が発酵中にどんどん膨らんでパンのキメができていく様子になります。生地が弱いとこういう切れ目があるので、気泡がイーストでいくらCO2を出したところでここから空気が逃げるので、結果パンがペションコになります。
ボリュームが出ないということがあり得るわけですけれども。ここにデータムがと入っていると綺麗にグルテンネットワークが繋がり、気泡が逃げないキメが安定します。結果ボリュームが出るパンができるということになります。
こちらのショックテストはパン生地の耐性を評価する方法ですが、ホイロが程よく出たワンローフの生地です。専用の台に置いといて、これを両方にガッと引いてこの生地をバタッと落とします。ホイロが出ているので、普通に落としますと残念ながらペショッと萎み、キメも粗くなります。弊社で販売している乳化剤単品を配合するとショックを与えても、多少の縮みはありますがダメージは制御されます。これぐらいの生地の耐性と言いますか、生地の力をつけることが出来るというのがこのタイプの乳化剤の持ち味となります。
もう1つの乳化剤のタイプはモノグリですね。こちらは生地に効く、データムのようにグルテンを繋げる効果はありません。同じ乳化剤ですが、一方で柔らかさというところに効果的に聞く乳化剤です。0.2%でも添加しますと、これD6~D7…1週間後になっても…D2、D3…入ってないバージョンの柔らかさが維持することができます。入れれば入れるほど、その効果が顕著になるというものになります。もちろん、柔らかさが増すっていうのは、逆に言うと、ちょっと弾力がないとか、よくクチャつくという言い方をしますけれども、モノグリを入れると顕著に弾性が無くなりクチャつく効果が見られます。
効果が期待出来るからと言って、入れれば入れるほど良いと言うわけではありません。いかんせん、最初に申し上げたようにあと1日、賞味期限を延ばしたい、あるいはもうちょっと柔らかさを足したいという時にモノグリはお勧めです。その他モノグリの効果は、キメを改善するという点です。この写真は私どものヨーロッパのラボで撮影されたものです。弊社のモノグリ製品の乳化剤を配合しますとキメが細かくなります。引いてみると対照がくすんで見えるのに対して、配合されている生地はキメ細かく白っぽくきれいなキメに見えます。これはモノグリに期待される効果でして、キメの細かい安定した内相を具現化します。
続きまして酵素に関する話になります。酵素とは端的に言いますと人の体の中、唾液だったり胃液、膵液、消化酵素など、体内で働いています。元々小麦粉の中にも入っていますし、イースト内にも含まれいます。自然の生きとし生けるもの、皆さんが酵素によって消化活動をしているというものなので、添加物の1つではありますけれども自然の物といえるでしょう。実態としては、触媒効果があるタンパク質です。パンを焼いたり加熱すると変性して効果がなくなるので、酵素だけであれば焼成後のパンには添加物表示は表示義務が無くなります。
ナチュラル志向の方にはとても使いやすい素材で前記したA、B、Cにも入っています。αアミラーゼ、それから、エミセルラーゼ、キシラナーゼに入っていましたプロテアーゼ、グルコースオキシダーゼ。様々なタイプの酵素が存在します。
はさみのような模式図で表すことが多いのですが、でんぷんを切るとか、増粘多糖類を切ると表現し、何かを切るという効果によって、安定化したり柔らかさが増したりボリュームも出します。前に効く対象が書いてあります。例えばデンプン、アミロース、アミロペクチンなど、それらに効くのでアミラーゼというふうに書いてあります。デンプンは、こういった粒粒が連なった鎖のような形で現されることが多いです。α-アミラーゼと呼ばれているのは、こういうところをチョキチョキ切っていく、枝分かれとかそういうことを気にせずに、適当に切っていくタイプを指します。マルトースアミラーゼは、マルトースは、この鎖が2つのタイプがマルトースと呼ばれていて、2個単位で切っていくタイプになります。このはさみも様々で、こういう分れているところを狙って切るタイプ、端から律儀に1個1個切っていくタイプ、なぜか4個ずつ切っていくタイプ。無作為に切っていくα-アミラーゼ。2個ずつ切っていくマルトースアミラーゼは、よくパンには使われるものになります。
どちらもアミラーゼですが、何が違うの?と言いますとα-アミラーゼとマルトースを作るアミラーゼは効く温度が異なります。酵素はタンパク質ですが、タンパク質は卵と同様で、ゆで卵が固まることを考えていただくと分かり易いかと思います。普通の酵素は60度ぐらいで失活するとされています。マルトースを作るアミラーゼは、もうちょっと高い温度まで効きます。75度になりますと、でんぷんが糊になるとずるずるした形の鎖が糊でパンいっぱい出てくるような状態になります。この作業をきちんと効率よくできるのです。α-アミラーゼはざっくりと、切らないし、しかも早い段階でチョキチョキ細かく切っていくみたいな作業には向きません。このチョキチョキ細かく切っていくのは、もうちょっと留まって仕事をしてくれるので食感にもその分効いてきます。酵素でもう1つキシラナーゼあるいは、ヘミセルラーゼ。名前は違いますが、ほぼ似た作用があります。小麦粉に入っている多糖類、こういう細長い繊維がぐちゃぐちゃっと固まったみたいなと言うのですけども多糖類にチョキチョキ効いてくるものです。そういうタイプの酵素になりますが、あるとなかなかグルテンが繋がりません、よって生地をしっかりと捏ねていただく必要があります。
例としては、冷凍生地を仕込みたいなどの場合やミキシング時間を短縮したいが、しっかりとした生地物性を取りたいといった時はキシラナーゼが入っていますとこのチョキチョキっと切るのでこれがばらけ、ぐちゃとなってたものがばらけるので、その分小麦粉の中にちゃんと散らせることができ、グルテンは繋がることができ、理想的な生地が捏上ります。
私どもダニスコのキシラナーゼ製剤ですけども、あり・なしで見ますと、4週間経っても生地があまり傷んでこない。ボリュームが減ってこない。なしの場合は結構顕著にボリュームが減ってくるということで、時間が経つとその効果が分かり易いかと思います。
次が酸化剤です。ビタミンC又はアスコルビン酸と記されている事が多く、世界的にも一番よく使われている酸化剤はビタミンC、アスコルビン酸になるかと思います。
酸化というのは、つまりグルテンの繋がりです。本当はここにHと、SHとSHと、HとHを取ってSとSだけにする。SとSは手があるので繋がるのですけど、HとSがくっついているとここが繋がらないのです。これをこの製剤を入れて強制的にHとHを取り上げ、SとSがちゃんと手が繋がるようにしてやるのが酸化剤です。
酸化剤を入れない場合、生地を捏ね合わせて空気に触れ合わせ、生地を熟成させればこういった効果が起こります。うちはちゃんとミキシングを見ながらかけられるし、時間もよくかける、良いグルテンがしっかり出る粉を使っている、そういう方は酸化剤を入れなくても同等の効果を以上の作業から得ることが出来ます。
手捏ねでパンを作る際に酸化剤、ビタミンCを10ppmでも入れますと、生地が良くできます。やはり、ミキシング不足やホイロ不足などのような生地の強さが不足している場合は酸化剤は有効です。
デメリットとしては、こういう生地の繋がって、即効性があるので生地も捏ねている時からぐんぐん繋がります。バッキーになるというような言い方をしますけど、効いてくるの、丸める時にツンツンする、丸めてもなかなか丸まらない、カールしてもなかなかカールしきらない、ホイロから出してみるとやけにムチムチ割れてくるなど、そういった事態は酸化剤が効きすぎていると思われます。こう言った場合は改良剤の量を減らす又は改良剤のタイプを変えて酸化剤がちょっと弱いタイプにする。
酸化剤も上限がある素材で、入れれば入れるほど効くかと言うとそうではなく、今言ったように生地が効きすぎて、かえって生地が傷むこともあるので、入れ過ぎには注意です。スクラッチであればもう10ppmで効きますし、冷凍生地ですと100ppmも入れればマックスです。4つ目が私どもダニスコではハイドロコロイドと呼んでいます。日本語ですと増粘剤とか増粘多糖類と呼ばれています。
ゲル化剤の仲間で、私どもで販売している増粘剤は天然のものがベースになっています。お豆から取るタイプ、レモン、オレンジとなどシトラス系のフルーツから取るタイプ、海藻から取るタイプ、綿とか木となど硬そうなものから取るタイプ、後は菌から取るタイプもあります。
この中でパンによく使われるのはグアーガム、キサンタンガム、ペクチン、アルギンサン、アルギン酸エステルなどです。増粘剤は、読んで字のごとく粘度を増す素材ということになります。単純に粘度を出す、つまり水をガッとこの増粘剤に抱えさせて、普段よりも1~2%水が入るようにする。その効果で全体のコストが下げられる。後は保水性が良くなって日数が経ってもしっとりする効果も期待出来ます。特にグアーガムです。
ペクチンやキサンタンになりますと乳化剤と同様、直接タンパクに作用することができるというようなタイプもあります。
ペクチンを入れますと、生地が増粘してベタッとなるだけでは無くグルテンが繋がりやすくなり乳化剤、酸化剤ほどではありませんがある程度生地の耐性をつけることができます。ハイドロではよくあるのですけど、相乗効果が期待できます。このキサンタンとグアなどは代表的なのですけど、1対1で使うと1+1が2じゃなくて3になるような作用が期待出来ます。組み合わせるとより良さが出る素材です。
生地を強くしようと思ってハイドロを入れるというのは、ここには書いてありますが効果がなく、やっぱり増粘、保水がメインになってくるのでハイドロを沢山入れてと言うことはありませんが、そのぶん、改良剤としてじゃなくて単体で入れていただいてもわかりやすく効いてくるかと思うので、ご興味があれば1回お試しになってみると良いかと思います。こちらキサンタンガム0.3%入れたタイプと入れていないタイプの冷凍生地のグラフです。ご覧になってお分かりのように、入っている方が入っていないものと比べて最初からボリュームが大きく、冷凍生地ですので当然生地が傷んでくるわけですけれども、日数が経つとよりその効果がわかりやすくなるということで、冷凍の持ちが良いというのがお分かり頂けます。
素材としてはこちらが最後ですね。イーストフードになります。改良剤というところでイーストフードも同列にするのはあまり無いのですけどそもそも食品表示基準でこういうものたちをまとめてイーストフードと表示しても良いですよと法令で決まっている添加物です。
主にはアンモニウム、窒素源で、アンモニウムとかマグネシウム、リン酸、カリウム、窒素、塩酸、カリはよく肥料などにも使われる三点セットなので、家庭菜園をやられる方は身近かもしれません。生き物がエネルギーを生産させていくのに必須の要素なのです。ですので、イーストフードと言う名前もちょっとどうかなと思います。
その他に、生地を捏ねるのはある程度硬水が良いと言う考え方がありますが、カルシウム、マグネシウムのような2プラス、二価の陽イオンを生地の中にある程度入れておくとグルテンの繋がりが良くなって生地が安定します。それもやはり大きな工場で作る生地などはすごく顕著です。そういう二価の陽イオンをあらかじめ補っておくと日本は軟水なので、硬水に近づけるというのも、1つのイーストフードです。
後は、pHの調整です。これも水質調整と同様ですけれども、ある程度イオンのバランスを整えておいてやる。イーストにしても酵素にしても弱酸性が一番働きやすいので、アルカリ側に傾いているような水を使う場合は弱酸性に行きやすいような水を作っておいてやるっていうのもイーストフードを使う目的です。消費者の方はイーストフードと聞くと、すごい添加物っぽい、身体に良くなさそうと言うような考えをネットの記事などでよく目にしますし、良いパンを作る、目的にあったパンを作るというところではこういうところもある程度正確に理解して、必要に応じて使いこなしていくのがポイントですね。
こういったようなもの、乳化剤・酵素・酸化剤・増粘剤・イーストフードをうまく組み合わせて製剤化したものが改良剤の実態ですね。改良剤の中身はそういったことでございました。ここまでお話させて頂き、それでは「どういうものを選ぶか?」「どうやって選ぶか?」それは目的に合っているものを選ぶということです。
どういうパンを作りたいのか、どういう材料でどういう工程で、どこを改良したいのか?そこが考え方のポイントです。
そういう製品開発の一助に本日のお話がなれば幸いです。